ここはコーディネーター達が住む新世代コロニー「プラント」。
今、ここプラントと地球は戦争をしている。
ナチュラルとコーディネーターとの戦いだ。

C.E.70 2月14日
地球軍からプラントの食料生産コロニー"ユニウス・セブン"に核が放たれた。
この事により、今まで緊張状態だった地球プラント間は、一気に悪化した。
あれから1年と4ヶ月が過ぎた。

プラント評議会、議長選挙の結果、好戦派であるパトリック・ザラが議長就任。
その為、温厚派と言われたシーゲル・クライン元議長は、議会から追い出される結果となった。
そして地球上ではザラ議長が提出した"オペレーション・ウロボロス"の強化策である"オペレーション・スピットブレイク"が実行された。それも当初予定されていたパナマではなく、アラスカ"JOSH-A"へと標的を変更してのものだった。
ZAFTは相手の隙をついて攻撃したつもりだったが、あらかじめその情報を入手していた地球連合軍は"サイクロプス"を使用し、アラスカ基地を破壊した。
この事により、ZAFTの多くの隊は死滅した。
しかも地球連合軍は、自分達の犯した罪をZAFTにかぶせた。
その日、ZAFTが新型大型破壊兵器を使用した為に"JOSH-A"が崩壊したと報道したのだ。

日々悪化していく現状に、多くのものは不安を抱えた毎日を過ごしていた。
そしてここに1人、己の罪に苦しんでいる男がいた。





ベンチに座り込み、下を見下ろしていた男に、一人の少女が近寄り声を掛けた。

「顔色が優れないようですけど、大丈夫ですか?」

頭上から降りそそぐ声は天使のように優しく、今まで張り詰めていた物が、ゆっくりととけていくようなものだった。
それでもその男は顔も上げようとはしない。
ただ、呟くように頷いた。

「えぇ、大丈夫です。いつもの事ですから」

そう、いつもの事。
あの日から、己の罪に罪悪感を感じなかった日などない。
あの時、彼の申し出を断っていれば。
あの時、自分の過去について聞いていなければ。
あの日以来、何度過ぎ去った過去を悔やんだだろうか。
それでも尚、男は満たされる事は無かった。

「何か、お辛い事があるのですね」

まるで男の心中を見透かしたような声に、男は目の前に立っているであろう少女に、全て打ち明けてしまいたい衝動に駆られた。
だが、それを出来ないでいるのは、男の最後のプライドが邪魔していた。
己の罪を、何も知らぬ少女に話す事は出来ない。
それでも一言だけ、男は言った。

「えぇ、取り返しのつかない事をしてしまったんです。俺は…」

ひざの上に置かれていた手を、男はぎゅっと握り締めた。
それは自分自身への苛立ちだった。
少女から見る事は出来ないが、その顔を悲しそうに、そして悔しそうに歪めている事を想像するのはたやすい事だった。
そんな男を見て、少女は再び声をかけた。

「犯してしまった過ちを悔やむ事は子供にも出来ます。そしてそこから立ち上がる術も、全ての人が持っているはずです。違いますか?」

決して多く語らない男に、少女は凛とした声で聞いてくる。
この少女は自分の心の中を読み取っているのではないかというほど、それは的確なものだった。

「もしあなたお一人で立ち上がる事が出来ないのであれば、私が手を差し伸べます。それではダメですか?」
「俺なんかに、手を差し伸べてくれるのですか?」

それは罪を犯したものが、許しを請う姿にも見えた。

「えぇ、勿論ですわ」
「なら、俺の話を聞いてくれませんか?」
「えぇ。ですけど、ちょっと場所を移しませんか?」
「そうですね」

少女の申し出に、男は素直に頷いた。
男自身、あの話をこんな明るい日の差すところで話したくなかったからだ。
ずっと俯いたままだった視線を上げ、目の前にいる少女に移した。
そして少女の顔を見た瞬間、男は息を呑んだ。

「あなたは…」

先ほどからずっと男と話をしていたのは、プラントで知らぬ者はいないほど有名な少女だった。
自分を見て驚く男の反応を見て、少女は口元に指を当てると、小さく微笑んだ。
それは小さな子供に言うように優しい仕草だった。

「シーですわ。よろしくて?様」
「どうして、俺の名を…」

どうして今、彼女が自分の目の前にいるのか。
どうして彼女が、自分の名前を知っているのか。
その男−−には、わからなかった。
状況が飲み込めていないに、その少女は力強い眼差しを向けて言った。

「それらは全て後で話しますわ。さぁ、時間がありません。急いで下さい」

そう言って微笑む少女に手を引かれ、男は闇を抜けるドアの前に進んだのだった。



 モドル  >>