最近、お気に入りの場所が出来た。それはの居る所。
どうしてか知らないけど、凄く落ち着く、安心する、気持ちが良い。
それは自分でも驚いてるけど、 でも"どうして"を考える事はしない。
何故ならそんな事は意味が無いからだ。
がいると安心する。
俺はその事実だけで十分だと思う。



「ふわぁ〜」

部屋に大きな欠伸が響いた。しかもそれはの物だった。

が欠伸なんて珍しいね。昨日、遅くまで起きてたの?」

の脇でゲームをしてるクロトが質問した。は作業の手を休めることなく、カタカタとキーボードを叩いてるが、とても眠たそうにしてる。

「うん、まぁね…。 夜には強い方なんだけどな」

そう言いつつ、はまた1つ小さく欠伸をした。

「コーヒーでも入れてやろうか?」

そう提案したのはオルガだ。読んでた本にしおりを挟むと、の返事も聞かずに立ち上がろうとしてる。

「あっ、ごめん。悪いけど、そうしてくれる?」
「分かった。じゃあ、うんと 濃いのな」
「いや、お砂糖1つにミルク多めで」

ガキかよと言うオルガのツッコミを無視し、はよろしくね〜と手を振ると、また作業を開始した。

「ヤバイ、目が霞んできた…」

それでも何度も目をこすりつつ、は作業を続けようをする。

「寝たら?
「そうだよ。少しぐらい休めば楽になるよ?」

クロトも、俺の意見に賛成の意を示した。

「でも、これをどうしても やっときたいんだよね…」

それでも渋るに畳み掛ける。

「それって今日、提出するもの?」
「いや、明日の夕方までだったかな」
「なら、寝ようね」
「えっ?」

素早くが作成してたファイルを保存し、電源を落とすと、の座っている椅子を俺の方に回転させ、の事を抱えあげた。

「えっ?ちょっと…。シャニ!!」

状況が飲み込めないは、少しジタバタしたけど、構わずにが落ちないように、キチンを抱えなおす。

「こうでもしないとパソコンから離れないだろ?」

は真面目だ。だから自分で立てたノルマを達成するまでは、絶対妥協を許さない。
それはの良い所でもあり、悪い所でもある。

「少しぐらい寝たって、なら明日の夕方までに間に合うよ。だから寝よう?」
「う〜ん、確かにシャニの言うとおりかな…」
「じゃあクロト、 俺さ、 の事、部屋まで運んでくるから」

クロトにそう言うと、の部屋に向かう為、ドアの方へ歩き出す。

「えっ?私、自分で歩けるよ!下ろしてよ、シャニ。恥ずかしいって!!」

が少しだけ騒いだけど、そんなのはお構いなしに俺は歩いた。


「はい、到着」

ベッドの上にを下ろすと、がキッと俺の事を睨み付けた。

「どうして下ろしてって言ってるのに、下ろさないのよ」
「だってまた仕事に戻るとか言いそうだったんだから」
「だからってお姫様抱っこは止めてよ。すれ違う人たちの顔見た?凄く馬鹿にしてるような顔だったよ」
「そんなの気にしなければいいじゃん」
「まぁそうだけど…」

そう言いつつ、はまた欠伸をした。
がベッドにごろんと転がる。俺はのデスクに腰を下ろした。

「ねぇシャニ」

とろんとした目で俺の事を見てきた。

「何?」
「記憶が無くなるって どんな感じ?」
「えっ?」

の突然の発言に首をかしげた。

「私ね、どうしても消したい記憶があるの。でもそれを消してしまったらその"証拠"が全て無くなっちゃうんだ。それに…」
「それに?」
「それを忘れるだけじゃ駄目なの。それに関する全てのものを消さないと…。でも、私は全ては忘れたくないんだ」

"矛盾してるね"って笑うの笑顔がいつものそれと違う気がした。

「どうしたの?。なんかいつもと違うよ?」
「ごめん、ちょっと疲れてるんだ。今言った事は忘れて。ねっ?」
「うん…」

実際、そ んなに簡単に忘れる事なんて出来ないけど、の言う通りにしてあげたいと思った。

「じゃあ寝るね」
「うん、お休み」

に毛布をきちんと掛けてあげると、ほんの数分では眠りに落ちた。規則正しく健やかな寝息が聞こえる。

疲れてたんだな。
机の上には広げっぱなしの本が何冊も乗ってる。それから普段は綺麗に整頓しているはずの部屋も少し、散らかり気味だ。試しに机の上にある本を一冊手にとって見るが、内容が難しすぎて理解出来そうにはなかった。
それにしてもよくこんな難しい本読むよね。まるで何かの暗号みたいだ。ぎりぎり、それが医学の本だという事は理解できるが、それ以外は無理みたいだ。
本を戻そうとしたら、一枚の写真が目に入った。

これってだよね?

写真に写っているは今より幼くて、真新しい軍服を身に付け、他のやつらと楽しそうに笑っている。日付は今から7年前。たぶん、軍に入隊した際 のものだと思う。
今もよくは笑ったりするけど、この写真に写っている笑顔とは少し違う気がした。

なんか今日はこればっかりだ。

たぶん同期の仲間 なんだと思うけど、の脇に写ってる奴はかなりと仲がよさそうだと、なんとなく分かった。でも、どうしてだろう?


ふとを見ると、頬を一筋の涙が伝っていた。
指で拭ってあげると、それはすぐに消えたけどの心の悲しみは消えないんだよね。

「お休み、

どうか悲しい夢を見ないように。


シャニ。ねぇ、起きて!」

誰かに肩を揺さぶられ 嫌だったけど、俺の意識が覚醒した。目の前にはが居て、俺の肩を揺さぶってたが、だという事が容易に分かった。

「なに?…」

ふわぁ〜と欠伸がでた。

「何じゃないでしょ。何で、私のベッドでシャニが寝てるの?」

心底不思議そうに聞いてくるに、さっきまでの影は消えていた。

「眠かったから」

そう言うとは、はぁーと溜息をついた。

「だからって私のベッドで寝ないで。驚いたじゃない」
「だって面倒じゃん。移動するの」
「あのね…。まぁいいや、私は仕事に戻るから。シャニがまだ眠り足りないなら、ここを特別に貸してあげる」

そう言ってベッドから降りると、布団を軽く直した。

「もう戻るの?」
「うん、大分楽になったからね」
「そう」
「じゃあ私は戻るけど、寝るのもほどほどにね」
「うん」
「じゃあ、お休み」

そう言うとは部屋を出てった。
俺はの香りのする部屋で再び眠りについたのだった。


がいるとなぜか心が休まる。
こんな経験が、こんな体になっても出来るなんて夢にも思ってなかった。



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