MSとの実践訓練を終え、部屋を出た所での姿が目に入った。 「こんな所でどうしたんだ?」 普段、自分らの体調管理をすると言って、四六時中俺らに付いているだが、訓練の際だけはいつも集まる部屋に一人残っている。別に付いてきてほしいわけでは無い。しかし、なぜかその行動が妙に浮いていると俺は思っている。 「あぁ、お疲れ様。他の2人は?」 「あいつ等はまだやってる」 「そう」 そう言って、は少し俯いた。 「ねぇ、オルガ」 が言葉を発しかけた時、嫌な奴が向こう側から歩いてきた。 「やぁ、久しぶりですね。」 アズラエルがに対して、妙に馴れ馴れしく声を掛けてきた。 その事に、俺は違和感を覚えた。今では、地球連合軍を裏で操っているとは言え、ただの少尉であると、アズラエルに面識があるとは思えなかったからだ。 「お久しぶりであります。アズラエル理事殿」 しかし、俺の違和感など分かるわけも無く、はびしっと敬礼をし、アズラエルに挨拶をした。 「そんなに身構えなくて結構ですよ。どうです?慣れましたか。彼らの子守は?」 と言って俺のほうを見るから、俺はわざと不機嫌な声を出した。 「俺の目の前で、わざわざ言うんじゃねーよ」 「オルガ、口が悪いよ。失礼でしょ」 「いいんですよ、。どうせ、いつもの事ですから気にしないで下さい」 そう言って、アズラエルは大して気にしてなさそうに笑う。きっと俺だけだったら、お仕置きだとか言うところだろう。 「それで、どうなされたのですか?」 「いえ、君達に教えてあげようと思いましてね」 俺は嬉しそうに言うアズラエルを少し睨むように見た。 「何をだ?」 俺の声に、アズラエルはクスっと嫌な笑いをした。 「君達を実践に送り込むのも、そう遠い日ではなさそうですよ」 実践、それは仕組まれたデータでの戦闘ではなく、実際にコーディネーター達と戦うことを意味している。 「彼らが攻めてくると言うのですか?」 少し緊張した面持ちでが聞き返す。 「コーディネーターだけが、敵とは限りませんよ」 「えっ?それはどういう事ですか?」 予想していなかった答えに、は聞き返す。 「さぁ、どういう事でしょうね」 しかしおっさんは、それ以上は何も言う気は無いらしく、口を閉ざす。 もそれ以上追求せず、別の話題を持ち出した。 「あの、アズラエル理事。お聞きしたい事があるのですが」 「なんです?」 「アークエンジェルがアラスカでの戦闘で、逃亡したと言うのは、本当ですか?」 アークエンジェル? アラスカの戦闘って、この間の"JOSH-A"の事か? サイクロプスをアラスカ基地の地下にしかけ、ZAFTの奴らと共に、殉死するって作戦の事だったよな。 なんで、わざわざそんな作戦の事をが気にしてるんだ? 「えぇ、そうらしいですよ」 おっさんの解答に、の顔には、安堵の表情が見られた。 しかしおっさんは、顔をゆがめて呟いた。 「全く…。利用させれるなら最後まで十分役に立ってくれればいいのに…」 それはつまり、囮となったのなら、最後までその役目を果たせと言うか。 所詮、こいつにとって他人とは、全て捨て駒に過ぎないんだな。俺らと一緒で・・・。 「おや、もうこんな時間ですか。用があるので、ここで失礼させてもらいますよ」 そう言って、アズラエルは立ち去った。 アズラエルの姿が完全に見えなくなった所で、俺はに、声を掛けた。 「おい、」 「何?オルガ」 「お前、なんでアークエンジェルって艦の事を、わざわざ聞いたんだ?」 俺の問いに、一瞬驚いたようだったが、意味を悟ったように口を開いた。 「あの艦の指示をとっている人が、私の先輩なのよ。だから気になっててね」 「初めて聞いたぜ。そんな事」 「だって、今まで言った事なかったからね」 "当然でしょ?"と言うように、が笑う。 今更ながら、俺が知っている・は、こいつのごく一部でしか無い事を思い知らされる。それはにとって、俺らの一部しか知らないのと同じなのかもしれないが、俺らの場合、自分でも覚えている事が少ないのだから、仕方が無いだろ? 俺ら以上に、には謎が多いのかもしれないと、俺は心の中で感じていた。 「あー、だ」 突如、背後からクロトの声が聞こえた。訓練を終えたらしく、シャニも一緒だ。 「2人もお疲れ様。お昼にしよっか?」 の案に、クロトの奴は妙に騒ぎつつ、同意した。どうやら、相当腹が減っていたようだ。まぁ、訓練でそれなりにエネルギーを使うわけだから、当然な反応ではあるがな。 俺らは揃って食堂へと向かい、隅のほうに腰を下ろした。 「あっ、ゴメン。先にご飯食べてて。ちょっと部屋に忘れ物を、取りに行ってくるから」 そう言って、は席を立った。 少しして、小さなピルケースを片手に、が戻ってきた。 「あれ?先に食べてて良いって、言ったじゃない」 確かに、そう言われていたが、俺らは手を付けず、が戻ってくるのを待っていた。 不思議そうな顔をしつつ、がシャニの脇に腰を下ろす。 「なんで、先に食べなかったの?」 「がいなかったから…」 ぼそっと言うシャニの言葉に、は余計わけが分からなくなったように、口をかしげた。 シャニの言葉には、主語や目的語が抜けやすい。 いくら、俺らと生活していても、これに慣れるのには一苦労だ。 「前にが、皆で食べた方が美味しいって言ってたじゃん?」 クロトが笑いながら、補足をした。 が来るまで、俺らが揃って飯を食べる事は少なかった。まぁ、シャニなんかはほっておくと、いつまでも食べずにいるから、俺が世話を焼いたりもした。それでもこうして、席に並んで座ることも無かった。 だが、が来てからと言うもの、4人揃って飯を食べると言うのが、当たり前になりつつあった。それはかなり大きな変化だったのかもしれない。 他者の干渉を避け続けていた俺たちが、今では・と言う1人の女を中心に、1つになりつつある。まさかこんなにも、に依存しているなんてさ。最初は思いもよらなかったぜ。 「そう言えば・・・」 気だるい口調で、シャニがしゃべり出した。 「それ、何?」 そう言って、が食事トレーの脇に置いた、ピルケースを指差した。 「あぁ、これ?サプリメントよ」 「いつも、呑んでるよね」 「うん。なんか、これを呑み忘れると体調が悪くなるんだ」 そう言って、箸を進める。 それを聞いてクロトは、ピルケースを指でもてあそびつつ、を見た。 「サプリメントって、美味しいの?」 面白そうに、ピルケースを見ながらクロトが聞く。 その姿は、子供が新しいおもちゃを手にした時に似ている。 「別に美味しくもないよ。錠剤みたいなのを、呑み込んでるだけだしね」 「へぇ〜」 残念そうに言うところから、もし、これ美味しかったら呑むつもりだったんじゃないかと、俺は思った。こいつならありえない事ではない。 こいうところが、クロトは本当にお子様だと呆れつつ、俺も食事を進める。 「そうだ。これを食べたら、ちょっと私の手伝いしてくれない?」 思い出した様に、が言う。 「何すればいいの?」 「休憩室の大掃除」 の答えに、シャニとクロトが嫌そうな顔をした。 「めんど〜い」 「文句言わないの。大体、シャニやクロトが部屋を散らかすからでしょ。今日こそは、徹底的に掃除するんだから」 そう言って、目を光らせる。 外では戦争をしていると言うのに、ここの平和な雰囲気に、俺は少し安心感を覚えた。 |
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