あの薬臭い施設から、この艦に移って2日。 この前、から、僕達の初任務について話を聞いていたから、別にこれに搭乗するのに疑問は無かった。 むしろあのMSに乗る日が近づいていると、わくわくしている。 たぶん、それはオルガやシャニも同じだと思う。 僕達3人は、MSの部品として改造されている所為なのかもしれないけど、不安などは微塵もない。あるのは、ただ敵を倒すと言う事。ただそれだけ。 この事をに言うと、凄く哀しそうな顔をするから言わないけど、僕達はとうの昔に壊れているのだと思う。 他人を殺す事に、後悔とか罪の意識なんて、これっぽっちもない。 これだけは、と一緒にいても、どうにもならなかった。 「先程、地球軍がオーブに最後通告を出したそうよ。48時間以内によい返事があれば、君達の出撃は無し。でも…もし、オーブが拒否した場合は、君達に出てもらう事になるわ」 僕達3人を見つめて、が重々しく告げた。 まぁ、あのおっさんが軍を指示した事は、僕らにも簡単に分かるほど明白だった。 だから、別に驚く事は無い。 「多分、オーブはこれを拒否してくると思う。だから、君達も覚悟を決めておいて」 いつもの優しい声ではなく、凛とした軍人的な声で、が言う。 忘れていた訳ではないけど、を見ていると、戦場を駆け抜ける軍人には見えない。 かと言って、僕もそうは見えないと思う。それでも人を殺す術を知っている。 あのMSに乗れば、幾人もの命を奪うだろう。それは、僕がここに存在している理由。 生きる為の術。 「も、一緒に行くの?」 シャニがぼそっと言う。 「えぇ。これでも君達の体調管理が私の仕事だしね。どうして?」 「別に。なんとなく、思っただけ」 それだけ言って、シャニはアイマスクを付け、再びソファに転がった。 僕は、シャニの言いたい事が分かる気がした。多分、それはオルガも同じだろう。 に僕達が戦っている姿を見て欲しくない。 僕達を人間として見てくれているに、自分が壊れていく様を見せたくないんだ。 「じゃあ、私はちょっと席を外すね」 「えっ?なんで?」 「仕事。ちょと、今のうちにやりたい事があるんだ。じゃあオルガ、2人の面倒よろしくね」 手をひらひらと振り、は部屋を出て行った。 って言うか、今のってまるで子供扱いじゃん。オルガだって、僕達と同い年なのに・・・。 僕とシャニって、そんなに子供っぽいかな? 「おい、クロト」 ふと、オルガに声を掛けられた。 「何?保父さん」 「てめぇ、ふざけた事言ってじゃねぇよ」 僕の反応に、さすがにオルガもちょっと癇に障ったらしい。だけど、本当に言いたい事があるみたいで、それ以上はその事に対しては、何も言ってこなかった。 「最近、あいつ変じゃないか?」 「の事?」 「あぁ」 「オルガも、そう思う?」 僕の言葉に、オルガは1度頷いた。 実は僕も気になっていた。最近、の様子が少しおかしいから。 以前みたいに、僕達の傍にいる時間が減った。"仕事"だと言って、どこか別の場所で、何かをしている。多分、正規の仕事じゃないと僕は思っている。 でもに出来る仕事って何? 僕が知っている限り、アリスが出来る事はデスクワークと僕達の看護位だ。 それらは別に、他の人間がやってもいいものだと僕は思っている。 もしかして、にしか出来ない仕事があるの? 「俺達って、何も知らないよね」 寝ているとばかり思っていたシャニが呟いた。 「何が言いたいんだ、シャニ」 「が来てから結構経つけど、って、自分の事あまり話さないだろ。俺たちは、ただの事を知っているつもりになっていた、だけなんじゃないかと思ってさ」 確かに、シャニの言うとおりだ。 僕が分かる事と言えば、・って言う名前と年。確か、23だっけ? それから軍人である事。性格はちょっとおっちょこちょいだけど、僕達を凄く大切にしてくれて、こんな僕達を"人間"として見てくれた"初めて"の人。 一人っ子で、弟のような手のかかる友人が1人いたって事くらいかな? たぶん、そいつはにとって、凄く大切な人物だったと、僕は思っている。 それ以外はいいとこ、好きな食べ物とか趣味とかしか知らない。 多分、シャニやオルガも大差無いと思う。 「そうだな。何も知らないんだな」 少し寂しそうに、オルガは言った。 ずっと一緒にいたと思ってたのは、僕達の思い込みだったのかもしれない。 でも、僕達にとってはそれが全てだったんだ。 がいて、僕達は変わったんだからさ。 「そう言えば、言ってたよね?ここ1年は休職してたって。あれ、なんでだと思う?」 ふと、と初めて会った時の言葉が頭をよぎった。 あの時はまだ、とこんなに親しくなるとは思ってもいなかったけど、そもそも軍人が、休職なんて可能なものだろうか。 もちろん、命に関わるような怪我をした場合であれば分かるが、は決して戦場向きではないから、そんな大怪我をするはずがない。 「そう言えば、そんな事言ってたな」 「もしかして、その1年間にもしくはその前に、何かあったのかな?僕達の知らない仕事をするような…」 なんか、の謎が深まるばかりだ。 大体、何故は僕達の体の事を知ってたの?γグリフェプタンは、あの施設でもトップの人間達しか知らない、機密事項だ。だから、わざわざ多くの人材を使う必要はない。 それなのにと言う、新しい監視役兼看護役が割り振られた。 それって何かおかしい。 「あいつ…。実はアズラエルの部下…だったりしないよな」 オルガが、思ってもみなかった事を言った。 「はぁ?」 オルガの言葉に、シャニも鋭く睨み付けた。 「オルガてめぇ、何言ってるか分かってんのか!?」 つまり、を疑ってるって事だろ!?に限って、そんな事あるわけない。 確かに、僕達は知らない事が多いかもしれないけど、よりによってアズラエルの部下だなんて…。そんな訳無い!! 「わかってるよ。馬鹿な考えだって事位は。けどな、この間あいつは、アズラエルの奴と親しく話してたんだ。あいつのどこに、ブルーコスモスの盟主と面識があるって言うんだ!?どう考えても、おかしいだろ?」」 何それ…。とアズラエルが?どうして?なんで…。 オルガの言葉に、僕は何も言い返せなかった。 でももし、オルガの言っている事が事実だとしたら、全ては一致する。 はアズラエルの部下で、しかもかなり側近にいて、僕達の信頼を得たのも全て仕事の為。オーブとの対戦が近づき、アズラエルの仕事の手伝いをしている。 じゃあ、あの優しさも全て、嘘だったの? を信じたいと思う自分と、疑わずにはいられない自分がいる。 「でもさ…」 沈黙を破るように、ボソッとシャニが口を開いた。 「いくら俺たちが知らない過去があろうと、はだろ?違う?」 シャニの言葉に、僕とオルガは頷いた。 僕達を"人間"として見てくれたのもだし、僕達を本当の家族のように見てくれたのもだ。人の温もりを、心を教えてくれたのもだ。 どうして僕達は、それを崩そうとしてしまったんだろう。何よりも、大切だと思っていたこの場所を・・・。 でも、この心のモヤモヤとした気持ちは消えない。 ねぇ、。僕達は、君を信じていいの? |
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