艦を離れ、僕は自分の機体であるレイダーをMA形態へと変形させた。そのすぐ後に大きな揺れを感じ、レイダーの上にオルガが乗ったカラミティが乗った事を確認した。
僕のレイダーやシャニのフォビドゥンみたいに飛行能力が無いカラミティを運送するのは、いつも僕の役目だ。確かにレイダーはカラミティを運送する為に、こういったデザインにされているが、正直面倒だ。
オルガさえいなければ、僕は自分の思うままに動けるのに。そう思った事は数知れない。
だけどあのオッサンの命令だから仕方が無い。
あいつの一言で、僕達の運命は180度変わってしまうのだ。

突如、僕より前を飛行していたフォビドゥンが海中へと潜り込んだ。
僕はそれを横目で見ながら、真っ直ぐと飛行を続けた。
どうせ戦闘が始まれば、あいつはあいつで勝手に楽しむのだ。僕には関係ない。



「君達は仲間なのよ」

以前、悲しそうな顔でがそう言った。
が来るまで、僕達の間に会話らしい会話なんてなかった。
今もそんなに多いわけじゃないけど、あの頃に比べればかなり話すようになっただろう。
でもだからと言って、あいつらを仲間だと思えるかと問われてば、答えは"NO"だ。
僕はあいつらを仲間だと思った事など無い。
もしかしたら、思いたくないだけなのかもしれないけどね。



『おい、クロト。もう少し右方向じゃないのか』

突如入った通信に、はっとした。
オルガに言われたように、当初の予定より少し左方向に飛行している。
どうやら考え事をしている間に、進路がずれたようだ。

「今、直そうと思ってたんだよ。ヴァーカ」

オルガにそう文句を言うと、進路を修正した。
今はオーブと戦闘中で、こんな事を考えてる場合じゃない。
戦いに集中しよう。
そう思い、現在の戦闘状況を確認するべく、画面に視線を走らせた。
空中でもいくつものミサイル同士がぶつかり合い、爆発している。
そしてその下では、どごーんというけたましい音を立てて、いくつもの艦が爆発して海の藻屑と化している。
一本の白い筋が海の中から空へと放たれた。
それはフォビドゥンが重刎首鎌『ニーズヘグ』でオーブ軍の艦を真っ二つに裂いた事を意味していた。
僕はそれを少し離れた所で確認した。
戦場が海の上だから、僕は今だカラミティを乗せたまま飛行している。
突然、下から命知らずなバカが僕に向けてミサイルを放ってきた。

「はぁーっ」

気合を入れて次々に艦を撃っていく。
艦がはじけ飛ぶ様を見るのはとても愉快だ。
でもそれと同時につまらないとも思う。
こんな雑魚ばっかり相手にしていては面白いはずが無い。
昨日の白い機体と赤い機体はどうしたのだろうか。
アレくらい強くなくては、ゲームになりもしない。
それはオルガも同じらしく、開きっぱなしの回線からオルガの声が流れてきた。

『どうしたんだよ。昨日の2機は』

地上ではオーブの物と思われる赤と白のMSが、連合軍のストライクダガーとか言うMSと応戦している。
それを見て蟻みたいだと思うのは、その量に対してか、それともそれの弱さに対してか。
言うなれば、どっちもって感じかな。
そんな事を思っていると、地上の方で大きな爆発がした。
視線を移せば、昨日の白いMSがいた。
オルガに言われるよりも早く、僕はそっちにレイダーを移動させた。
白いのは地上でストライクダガー相手に応戦していたが、途中、カラミティが『シュラーク』をMS目掛けてぶっ放した。
白いのはそれを上へと避けた。

『へへっ。見つけたぜ、昨日の強いヤツ』

白いヤツの意識がカラミティに集中している間に、フォビドゥンの誘導プラズマ砲『フレスベルグ』がヤツを狙う。しかし白いヤツはそれをひらりと舞うように避ける。だけど一瞬の隙をついて、僕は機関砲を撃ちつつ爪で白いヤツの機体にダメージを与えた。

「今日こそはやらせてもらうよ」

僕、オルガ、シャニが三方向から白いMSを追い詰めていく。
攻撃を避けたり、シールドでダメージを最小限に抑えようとはしているが、途絶える事の無く攻撃を受ければ、相手からの反撃は殆ど皆無に等しい。
このまま倒せると思った時だった。
なにやら赤い物体がフォビドゥンへと突進し、カラミティと僕のレイダーに向けてビームが飛んできた。
僕達はビームを避け、シャニも『ヘーグニズ』でその飛行物体を回避したが、もう一歩というところで邪魔が入った事に驚きを隠せなかった。
しかもそれらをしてきたのが昨日の赤いMSで、まるで白いのを守るようだった。
MA形態からMSへと体勢を換え、機関砲を打ち込むがそれらも全て回避される。
気体に当たらずに 避けられた砲弾は海の水を撃ち、白い飛沫をあげている。

『そろったな。赤いのも』

回線からオルガの嬉しそうな声が聞こえてきた。
確かに、強い相手がそろった事はいいことだ。
そうでないとゲームは面白くない。
だが、折角白いのをやれそうだった時だからこそ、悔しさも半端じゃない。
ゲームクリア目前にして、ゲームの電池が切れたようなものだ。
白と赤のMSはお互いの背を合わせたかと思うと、カラミティの『シュラーク』を避けて、こっちに向ってきた。

カラミティが白いのを相手している間に、僕は赤いのを狙った。
『ミョルニル』を赤いのめがけて投げつければ、さきほど飛んできた背中の部分がMSから分離した。
ビームを避け、立て続けてそのパーツもこっちに向ってくる。
それらを避けた際、かなりの衝撃を受けた。

「ちぃっ。こいつら、いい加減っ!」

海上では、カラミティが白いの目掛けて『シュラーク』をぶっ放しているが、白いのはちまちょこと逃げまわっている。

『ちっ、しぶとい!』

回線越しにオルガの苛立った声が聞こえてきた。
対戦中、僕達の無線は常に開かれたままだから、当然といえば当然だ。
相手の状態を知る為らしいけど、こんな戦いをしている最中に他の奴らの事なんてかまっていられるわけないのにね。
そして聞こえてきたのは声だけじゃなかった。
ピピピッと言う警告音。
それはエネルギー切れの警告音だ。

『くそっ!このバカモビルスーツ、もうパワーがヤバイ!』
「お前はドカドカ撃ち過ぎなんだよ!ヴァーカ!」
『ンだとォ!?』

正直に僕の意見を言えば、オルガからは怒りに満ちた声が返ってきた。
ただでさえパワー重視のMSなのに、オルガも学習能力ないよね。
あれだけ撃ちまくれば、パワーが底をつくのは早いに決まってるのにさ。
僕はオルガみたいにドカドカ撃ちすぎたりはしない。
ゲームみたいに、確実に敵を捕らえて撃つ。
だからエネルギー切れなんてヘマはしない。

「帰んなら1人で帰ってよね!僕は知らないよォ」

そう無線越しに言った時だった。
目の前に視線を戻すと、大きな水柱が上がった。
その中から赤いMSが飛び出したかと思えば、ビームサベルを振りかざしてきた。
それを避けようとしたが、運悪く『ミョルニル』が真っ二つに切断された。
次の瞬間、ミョルニルは空中で爆発した。
しかもその時の衝撃の所為で、左手部分がショートを起こした。
急いでMA形態にして飛行させた。

「くぅっ・・・」
『けっ!バカはてめーの方じゃねぇかよ!』
「なんだとォ!?」

むかついてオルガに言い返そうと思った次の瞬間、レイダーに振動が走った。
被爆したわけじゃない。
オルガのカラミティがレイダーの上に乗ったのだ。

「勝手に乗んなよっ!コノヤロー!」
『うるさい!とっとと補給に戻れよ!お前もそれじゃ、しょうがねぇだろ!』

悔しいけどオルガの言うとおりだ。
このままでは満足に戦う事など出来ない。

「くそぅ!」

オルガの意見に賛成するのもしゃくだったが、僕は艦に向ってレイダーを飛ばした。
続いてシャニのフォビドゥンも艦に戻る為、戦闘から抜けた。



カラミティを先に艦に戻し、レイダーをMS形態に戻して艦に収容させる。
前回と違い、まだ薬は切れてはいない。
だけど時間の問題だと言う事はわかっていた。
だからこそ、レイダーを降りると白衣姿の研究員達の元へ向った。
相変わらず無表情で、何かデータらしきものを記入している。

「薬は?」
「アズラエル様の命により、自室で待機との事だ」

研究員の言葉に、僕は小さく舌打ちをした。
あのアズラエルの事だから、素直に薬をくれるとは思っていなかったけど、正直辛いかもしれない。昨日よりは戦闘時間も少ないけど、実際に敵と戦ってみると、薬の切れる速さが全く違う事に正直驚いた。
多分、この補給が済んだら、またすぐに出ると思うけど、薬切れの苦しさだけは味わいたくないというのが僕の正直な気持ちだ。勿論、これはオルガやシャニも一緒だと思うけどね。

薬がもらえないのなら、いつまでもここにいても仕方が無い。そう思うと、僕は出口に向った。後ろから、同じく薬をもらえない事を伝えられ、不機嫌そうな顔のオルガとシャニがついてきた。

「自室で待機だってさ。やってらんないよね」
「んな事はわかってる。同じ事を何度も言うな!」

いつ薬が切れるかわからない不安からか、僕の言葉にオルガは噛み付くように言葉を返してきた。睨みつけるような視線を浴びせられ、僕は肩をすくめた。

それにしてもオルガって余裕無いよね。
薬が切れるのはオルガよりも、僕やシャニの方がさきなのにさ。
まぁ、薬切れの苦しさは半端ないから、当然といえば当然の反応なんだろうけど。

早く部屋に戻って大人しくしてようと思った時、目の前の通路を見慣れた人物が通り過ぎていった。

!」

僕よりも先に、に気付いたシャニがの名を呼ぶ。
シャニの声にも歩くのをやめ、僕達の姿を確認すると近づいてきた。
あのアズラエルの事だから、僕達に薬を与えたも酷い目にあっているんじゃないかと不安だったけど、取り合えず外傷らしい怪我は見あたらない。

「3人とも戻ってきてんだ。ごめん、気付かなかった」

ほっと嬉しそうに言うに、さっきまで抱えていた嫌な気分はどこかへ吹っ飛んでしまった。本当に不思議だ。

「怪我、してない?」
「うん、平気」
「お前こそ、大丈夫か?」

オルガの問いに、は頷いてにっこりと笑った。

「私は大丈夫だよ。今回は無事に薬もらえたの?」
「まだもらってない。自室で待機だってさ」

正直に答えると、一瞬にしての顔が曇った。
その瞬間、言うんじゃなかったと後悔した。

「ごめんね。私、何もしてあげられなくて」

にそんな顔をさせたかったわけじゃないのに、自分の無力さに腹がたった。
しかし唇をかみ締めて、悔しそうに言うに、突然シャニのヤツが抱きついた。

「俺はがいてくれるだけで嬉しいから、そんな顔しないで」

シャニのその一言に、は何度も頷いてシャニの頭を撫でた。
本当ならいつまでもこうして話をしていたかったけど、自室で待機の命が出ている以上、それも得策じゃないと思い、僕達は部屋に戻る事にした。

だけど僕は、部屋に向って歩いている間中、僕達を見送ったの悲しそうな顔が脳裏から離れなかった。



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